お花茶屋のひと/恋月 ぴの
触れていないでしょうね
彼の背中に隠れるように小さくなっている私に向かって
当番の腕章をしたひとがしつこいくらいに同じ質問を繰り返した
ストレッチャーに乗せられ所轄署へ移送される遺体に掌を合せご冥福を祈り
親族が来るまでとパトカーに乗り込む彼の後ろ姿を見送る
一人ぼっちになった青空はまるで安っぽいドラマみたいに晴れ渡っていて
どっちが駅だったのかうろ覚えのままにさ迷い歩けば
軒先にぶら下げられた鳥かごに十姉妹にぎやかに囀っていて
かごの中の鳥って本当に不幸せなのだろうか
なぜかそんなことにまで思いを馳せる
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