糟糠/salco
ばあさんが男を一人しか知らないとしても
人生の物足りなさはそこに在るのではなく
今日もやかんの熱湯をポットに注ぐことや
皺だらけの寿命の尽きるのが
再来年でも明日でも変わりはしない
そのことに在るのでもない
ただ、背後の卓袱台で新聞紙をめくる音を
聞きながら思うのだ
あの人はいつも
私から幸せを引き出して行った、と
6月の空き地でナデシコを見るような
ささやかな喜びさえ
泥靴のような神経で踏みにじって来たのだ
小言 威圧
繰り言 我執
無視 嘲罵
舌打ち 侮蔑
こう思うと
生きながら半ば死ん
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