rain/ロリータ℃。
「お腹すいたね」
「うん。何か探してくるよ、何が食べたい?」
「いらない。側にいてくれればいい。一緒に雨の音を聞きましょう」
「…うん」
「わたしゼロに出会えて良かった」
「僕もナナに出会えて良かった」
「わたしは幸せ」
ナナが薄く笑う。消え入りそうな笑顔で。雪が溶ける寸前のような、そうだ、これは儚さだ。
僕は泣きそうだった。だから抱きしめた。本当は絶対に出会うことがなかった。出会えた感謝、守れない悔しさ。神様。
ナナが、いつのまにか寝た。僕は笑うように泣いた。
もう僕には何もできない。僕がいないときっとナナは泣くけれど、将来健やかで美しい、幸せな女性になるだろう。
僕にできることは、僕ができることは一つだけだ。
鳴りやまない雨の音。ナナの言ってたオルゴール。どんな音なんだろう。
言葉さえ奪う圧倒的な音楽。ナナの寝息と雨の音色のオーケストラだ。
僕はナナの手をギュッと握る。
いつか倒れたときに僕がいなくても、僕を思い出せるように。
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