若葉はしらない/千波 一也
 


若葉はしらない
なんにも、しらない
ともすれば己が生きていることも
すっかり忘れて揺れている

瞳のあかるいひとや
髪の毛のうつくしいひとや
ことばに潤いの満ちるひとたちの
名前をいちいち若葉はしらない

永遠というものがあるならば
一枚の、一瞬のみどりが
必ず続いていくということ

おだやかに涙するひとも
いそいそと砕かれてゆくひとも
若葉はしらずに、ただ揺れている





若葉はしらない
ほんとに、しらない
うっかり枝から落ちたとしても
嘆きもふさぎもせずにいる

おそれる、という
心そのものや意義や足並みや
おそれと対峙することの諸々を
しらないことさえ、若葉はしらない

捨て去れなくなったものが
増えすぎてしまった
ひとの目に、指に
若葉はいつも懐かしく、清々しい

命の不思議と哀しみを
喜ぶように若葉は、ただ若葉である







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