シナ子/嘉村奈緒
1.
シナ子
今、列車に乗っている
田舎に帰る
トンネルに入るとヒューィって音がこだまするの
それは列車の車輪の音
昔よく吹いていた草笛にも
車掌さんが切符を切る音にも似てる
列車がトンネルを抜けると
田舎はもうなかったの
口をとがらせて鳴らそうとしたのだけど
思うようにいかない
何てことないよ
僕らは草笛の吹き方を忘れたの
ヒューィ ヒューィ
ューィ
手の中の切符は、サリサリというの
2.
地に突き刺して。ご覧、シナ子が降るよ
シナ子の腹に映える六面の千種
スカートの下のシナ子
くゆるシナ子もくゆるシナ
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