ほら
よく見てごらん砂浜を
ぽつんぽつんと小さな穴から
やはり小さな息がきこえてこないか
そのすぐ下でうずくまっている
口を閉ざした貝の声がきこえないか
彼らにとっては大きすぎる
僕の足跡の下にもいるかもしれない
彼らにとっては大きすぎる
僕の手のひらで掘り起こされた砂に
すっかり怯えたような貝がいて
それを自慢そうに見せようとする
僕をやさしく見ていてくれる君が
少しでも笑ってくれればいいと
僕のズボンはすっかりずぶ濡れで
手のひらの貝がかわいそうでも
僕はそのまま彼らをひろう
だけど君が心配するといけないから
小さな潮溜まりをつくっておこう
いつでもすぐにかえせるように
そう
しばらくすれば何事も無かったように
しずまりかえってしまう砂浜で
そんな言葉に出来ない会話をしよう
ぽつんぽつんとひとつずつ
そんな小さな思い出をつくりながら
胸の奥にしまってゆこう
そして
いつかまたこの海にきたら
そんなこともあったねって
小さな潮溜まりにふたりを映して
砂の中の貝にきこえないような声で
小さく笑おう