日向に浮かぶ/霜天
 
ふとしたはずみで鍵をかけてしまった
ぼんやりと手を見ても、何処にも鍵を持っていない
南風が緩やかに吹いた、首の傾き一つで忘れてしまいそうな
春先の、こと


日向に浮かぶ
そちらの、具合はどうですか
ぬるい海水のような匂いのする部屋
泳ぎ方も下手だというのに、あなたは泳いで



 いつかはいつかの話として、過程の事実を議論する。月曜になればみな、い
 なくなってしまう人々の、集まり。まだ寒い空の下、寒さを支えるビルの天
 辺。進路を南へ向けた船の影。まっさらでいつも優しい海の、その淵。鍵を
 失くしてしまった、その時のように。首を傾ける、僅かな仕草のように。ふ

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