あのフロリダの海/藪木二郎
 
 テレビで観たフロリダの海は
 それほど青くはなかったけれど
 中学生だった僕の心に
 あの海への憧れを植えつけるのには
 それで十分だった

 そしてもうひとつの憧れの的
 あの野性的な船長は
 今ではただの下品なオヤジだけれど
 僕の十代を
 完全に支配してしまった
 実際
 あの頃の僕は
 ヘミングウェイもメルヴィルも
 あの船長と再会するために
 そのためだけに
 読んでいたようなものだ
 もっともメルヴィルのほうは
 角川文庫版の第一分冊の途中で
 放り出してしまったのだけれども

 さらにあの署長夫人は
 僕のミセス・ロビンソンになった
 
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