七月/草野春心
とおい七月の或る日、
失踪してしまったひとがいる。
ぼくの知らない
東京の女の子。もしかしたら、
新聞で読んだことがあるかもしれない。
漫画を読んでいると彼女が
ベランダに現れた。そして、
こんこんと窓を叩いた。
女の子は檸檬の匂いがした。
どこから来たのと聞くと彼女は、
幽霊みたいな顔をして
そっと笑った。
彼女はぼくに話してくれた。
失踪のこと、
東京の街のこと、
彼女の家族のこと。
母親は生きていたら八十になるという。
父親は生きていてほしくもない。
ぼ
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