翌朝いそいそと出て行ったあなたは
スーパーの袋を提げて夕方再度戻ってきた
おやつを作るよなんて突拍子も無いことを
つぶやく彼女がばたばたと何かを始めだす
へらりと笑いながら食卓を作る手には
水溶き小麦粉のような黄色い跳ねが飛んでいた
皿の上には不恰好な
玉子焼きとも何ともつかない塊だけがある
添えられたフォークに容易く千切れたそれは
思ったより味は悪くなく
元から何をするにも鈍くさいあなたが
ホットケーキのつもりと言って笑う
甘すぎる味を口にしたまま
この作り物のように明るい世界に眩暈がした
こんなにも笑うことだけを
自分に残すものを僕は知らない
のろくさく華やかな世界があなたの国だとしたら
僕はそれに似合わないし
あの暗く湿った僕の国にもあなたは似合わない
互いに居場所の無い世界だった
別れた手から甘い匂いがする
いつかの失敗したホットケーキと同じ
粉っぽいぬるさだけを肌に残して