待ち焦がれた朝/板谷みきょう
 

桜が咲き始めた陽だまりの庭
ゆるやかな陽射しに
温かで風の強い春の喜びの日を
過ごせたはずの一日


咳の止まらない夜は長く

いつもなら枕元にあるはずの
サルタノールを
置き忘れていたのでありました

息ができないのです


暗がりの中で豆電球の橙に
ひゅーひゅー
ぜーぜー
絶望の闇が見え始めてくると
いつしか
眠ってしまうのでした


発作が起きたことさえ
忘れたような清しい朝
重だるい夜中の
永遠の咳き込みと右肋骨の
骨折の記憶が蘇り

寝不足に
ハーブティーを
煎れてくれた妻を前にして
ただ
しなやかに生きたいと

温かで風の強い春の喜びの日を
過ごせたはずの一日

ほんの少し
透明な呼吸を知るのです
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