『海の中の蛙』/東雲 李葉
なくなる。
それはそれは冷たい海。
教室の空気は人によって温度を変える。
まるで、何だっけ。冬に眠って春に起きだす生き物。
理科はあんまり得意じゃないんだ。
私の理科の授業はビーカーの片付けと蛙の解剖図しかなかったから。
そう、蛙とか蛇とかの変温動物。
教えてくれた男の子も次の日は蛇になって私を睨んだ。
あの子たちはぶつかった肩を払うことで何を浄化した気でいたのか。
私はあの子たちの何を汚してしまったのか。
小刀で削られていく鉛筆みたいに。
思ったよりも深く醜く縮んで折れそうで。
また新しいのを買えばいいや、と、
色付きリップの唇は揃って笑っていたのだろうか。
淡水でしか生きられない生き物を海水に浸けるとどうなるのか。
彼女らは私で実験していたのだろうか。
四角い海は冷たくて、肌が痛くて泳げなくて、
果てなく広い果てなく深い。どこにも岸が見当たらない。
しょっぱい味がのどに痛くて、上手く声も出せなくて。
買ってもらったメモパッドを真っ黒な文字で埋めることで、
蛙はどうにか海で生きてた。
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