種を蒔く人 /服部 剛
 
覚えていますか? 
私達が種だった日のことを・・・ 

ふらりと寄った鎌倉の古時計屋で
無数の時を刻む秒針の音に包まれながら 
独り置かれた勾玉(まがたま)の 
黒い瞳と、目が合った。 

(それはまことに遠い昔の、私の姿) 

古時計屋の外に出て 
春の日射しを浴びながら 
極楽寺への小路(こみち)を往(ゆ)けば 

理由の無い歓びが 
胸の底から湧きあがる 

あの日・・・真白い空間で 
何者かに思いを託され
この遺伝子に刻まれた 
世界に一人の名であること

ミレーの描いた絵のように 
「種を蒔く人」として
こうして地上に立っている 
私自身であること

鎌倉の小路を往けば 
胸に棲(す)む
遠い記憶の勾玉の 
いのちの種が、小躍りする 







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