届かないひと/恋月 ぴの
 
変わることの無い日々の延長に位置づけられ

乗り手を失った三輪車はどこか寂しげで
残されたのはひとり遊びの記憶と
小さな掌からこぼれた朝顔はガラリにまで蔓を伸ばす

人の営みは目に見えるものでしか表現できないし
メーターボックスはガス会社からのお知らせで封印されていて
誰かの気配にあわてて振り向いたって
そこにあるのは三輪車の背中を支えた束の間の幸せなんかじゃ無く

錆びて油の切れた鉄扉の軋みが
きぃきぃと甲高くどこまでも耳障りに夢を食む





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