届かないひと/恋月 ぴの
 
空き部屋になって久しい一階奥の角部屋
いっこうに入居の気配感じられなくて
郵便受けはチラシとかで溢れている

ポスティングするのが仕事なんだろうけど
声をかけたとしても臆すること無く
ほんのわずかでも隙間があればチラシを押し込んだ

エレベーターの無い名ばかりのマンションの名ばかりな1DK
だらしなく口を開いた郵便受けは初夏の日差しに曝され
宛先を失った手紙は足元に舞う

毎夜子供を叱る声がしていたと聞いたことがある

あたりはばからぬ怒声に思い煩ったとしても
自分達の暮らしを守ることで精一杯なのだから

許しを乞う泣き声やまなかったとしても
それさえも何ら変わ
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