穀雨/千波 一也
まだまだ冷たい春風のなか
緑は空を探しはじめる
それがやがては
海のように満ちてゆくのを
なぜだかわたしは知っていて
そのことが
解く必要のない不可思議であることも
なぜだかわたしは
知っている
咲いたばかりの
小花をそっと摘み取って
陽射しの匂いか
風の匂いか
はっきりしないけれど
受けとめやすい懐かしいものを
気まぐれに嗅いでみる
わたしの指の匂いが混ざり
それはもう純粋ではないけれど
春風のなかに身を置くと
揺れるものすべてが
味方におもえて
ますますわたしは
気まぐれになる
ゆっくり立ち上がる頭上の空は
灰の色
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