結婚/千波 一也
 
にふれた時
穢れるものに波を聴いた時

時間は
深い罠だと気がついた時

(すぐにでも窒息できるのに
(なぜだか人はそれがためには名を用いない
(おのれの名だけは用いない

指輪は
巧妙な形状をして
もろさが取り柄のような直線を囲う

なにか
漏れてはいけない秘密でもあるかのように
わたしたちはつい
見とれてしまうけれど
そうでなければ
美はあり得ない

幻さえも
あり得なくなる

(始まりの知れない呪縛の底を
(照らす秘宝が言葉なら
(かくまう神話も
(言葉で然り

この世でいちばん冷たいことを
語りたいのなら
ただただ黙れば
それで
いい

頑なな氷室の溶ける日が訪れて
おのれが願った冷たさよりも
その温かな仕草について
奪われゆくだろう
そっと

つながれていて良かったと
やがて静かに満ちるだろう

幸福の海の
たゆたう言葉の
音なき波に
契りを
浸して

既婚者と
して








戻る   Point(4)