マリネ/斎藤旧
布のなかに
たふたふに埋もれたわたし
手を伸ばすこともせず
のどだけをもち上げて
ことばを向こうに投げていた
ことばはいつしか完全で
組み合わせだけで無限で
それに夢中になるあまり
すべてをわすれていった
外国語を操るような
海を渡ったこともない
センセーショナルな
能を持ったこともない
ことばはすべてを可能にした
わたしを魔術師と呼ばせた
少なくとも、わたしの中で
わたしはすべてを知ったのだ
しかし布の中という
たふたふしたものは
けしてすべてではなかった
すべてを知らないわたしは
知っていかなきゃいけない
そのためにはことば以外で
知っていかなきゃいけない
待ちわびたバスが
漸く小さく見えた
揺られて見る何かに
会いたいと思った
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