春の冒険/ルナ
ける
その顔が醜く
どんな声や音よりも私にはうるさかったです
泣き止まない赤ん坊を必死にあやす女性
自分も泣きそうな顔と声で
ごめんね、ごめんね
を繰り返す
何度も何度も
まるで呪文のように
そういえば
赤ん坊をあやすのに
こんなに必死な
ごめんね
はあまり聞かないな
などと流れる窓の景色をぼんやり見ながら
愛されてるんだな
なんて思ったりもしました
隣の席に座る二人のおばあちゃん
聞くともなしに聞こえてくる会話からは
明らかに初対面だろうと思われるけれど
でもその表情からは
長年の親友のそれを感じさせられ
関係ないのに私まで
ふんわりした気分に包まれたり
様々な人間模様を乗せた
電車が走る
春の風を切って
その窓は
絵画がいくつも繋がったみたいでした
今度は歩いて冒険してみよう
歩く速さでなければ
見落としてしまう物もあると思うの
まだ私には
電車のスピードは速かったみたい
歩く速さで私の宝を見つけて
歩く速さで恋をしよう
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