月の嗤うさき 序/……とある蛙
 
霧に遮られた淡い月明かりが滲んで夜空に消え入りそうな晩。
書斎の机の上に開かれた革張りのポー全集の一巻、熱いコーヒーと揺らぐ葉巻の煙。その脇には蹲(うずくま)る黒猫。蜷局(とぐろ)を巻いた黒い毛玉。胡乱げに葉巻の煙の行方を目で追う。
突然首をもたげ、その視線の先には窓が。
黒猫の瞳はさして暗くもない室内なのに黒々として、

警戒している。

窓の外に蠢くもの。二階の出窓の外に大きな人影?
窓を開けると突然に異臭、耐え難い異臭と共に茶色の大きな毛玉のようなものが部屋の中に滑り込んできた。
猿、かなり大きな猿。
猿は牙を剥いて咆哮する。黒猫を恫喝しようと咆哮する。黒猫は耳を頭の後ろ
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