機は熟している、はずなんだけど。/佐々宝砂
 
私かて10年前の文章を発表したくなる気分のときはある。そして実際にお蔵から引っ張り出してきたこともある。しかしいまそんなことやろうとは思わない。そんなまどろっこしいことやってられっか。世の中はすでに変わった。知らんまに変わった。もはや昔を懐かしんでる場合ではない。事態は急を要するのである。

と書きながら、私は、「なんて私の文章ってテンポがよいのかしら」と一瞬思ったりするが、それは私が旧態依然とした過去の遺物だからである。私の文章は七と五のリズムからはみださない。字数の問題はなく拍数の問題である。わからん人はわからんだろうからほっとく。わかる人は、考えてみてほしい、たとえば私の文章と村上春樹の
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