春の或る日、植物園にて/あ。
 
かな部分にそっと触れれば
ひび割れた皮膚のすき間から
生きている振動が流れた


■さくら


咲く花は視界を遮るほどのものではなく
ぽつぽつと緑色も混じっている
お花見には少し遅かったのもあるし
昨夜続いた雨のせいでもあるだろう


まだほんのり湿っている土に
数え切れない春の残がいがばら撒かれ
幾度となく踏みしめられた圧力で
または思いがけず含んでしまった水分で
そこに埋め込まれているかのように
不規則な模様を作っている


淡い色は潔く美しく
どのひとひらも
底が見えないほどの春で
土に溶けて大気に流れ
新しい季節の種子となり


抱きとめることもかなわない
流動性


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