ブリキの金魚/シリ・カゲル
隊列からはぐれてもう一週間
伍長は毎夜、水面に映る星空を眺めている
炸裂した散弾のようなそれは、湖の底から仄かに浮かび上がってくるように見える
頭をかすめるのは去年のポークチョップのこと
半年前のポテトサラダのこと
幸いにも湖に水は潤沢だから
最低限の生存には困らない
水桶代わりに使う鉄兜も健在だ
でもなぜか、その湖の水はすくってもすくっても砂糖水
伍長はもう年季の入った糖尿病だから
苦笑いしてブリキの金魚を浮かべるしかない
伍長は支給品の中古の双眼鏡を手入れすることに夜の大部分を費やす
丹念に磨きこんだ双眼鏡なら、敵陣のさらに向こうでサンオイルを塗り合うカップルだって見える
そのカップルが互いに別のパートナーのことを考えているのだって見て取れる
どこか遠くの砂漠で気高いライオンが吼える
西からの風が東からの風に変わる
じゃらじゃらと余分なものを吐き出して、ブリキの金魚が空に浮かぶ
その銀の腹に鈍い光を宿して 夜に
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