梅雨/なまねこ
を吸って、その息の続くかぎり傷を舐め続けた。
真夜中に雨が止んだ。濡れないようにしゃがみこんで入った桟橋の下から這いでると、固まった砂浜があった。青い街灯が立ち並んでいた。格子で区切られたホテルの窓がひとつずつ光っている。
目の前に怪物がいる。命がより固まった、大きな怪物がいる。どれだけ巨大でも、それは生き物だった。傷は見当たらなかった。傷つくようなやわらかいところには鍵がかかっているのだ。窓が明滅して、我々は、と言った。守られている。鳥が飛べないほど雨が強くても、この生き物は守られている。
タクシーが止まり、スーツを着た女が入っていった。ドアが開き、ホテルマンが彼女を迎え入れ、にこやかに鍵をかけた。そうして守られている。傷つくこともない。波に揺られることさえない。
明日は二人きりで船に乗ろう。ベルが鳴る。
また雨が降りだした。梅雨の季節だ。
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