豆花火/八男(はちおとこ)
 
小豆を御空に投げて
はじけたら豆花火


私の体は黒い作務衣の洗濯をする
私の手は 開かなかった瓶を
無理に開けようとした力のせいで痛い



小豆を御空に投げて
はじけたら老婆が浮かぶ


私の体は黒い作務衣から毒を搾る


そうしていてなぜか小豆のことが急に
頭の中に現れて離れない


竹笊の中に海になって渦潮をつくっている小豆


祭りだったか夢だったか


思えば小豆のことを
長い間忘れていたなあ


そして小豆のことを頭から離すまいと思ったときから
小豆はどこかかなたへ消えて行った



小豆を御空に投げて
はじけたら豆花火


老婆が歌っていた
あの歌が懐かしい


そしてもう
小豆の形や色
匂い
歯並び
みんな
思い出せない 





戻る   Point(0)