ロコネガティヴィジョン / ****'99/小野 一縷
式の中の代数は
極めて希少な代物だった
どおりで得体の知れない魚類にも似た不安が
よくもまあ喰い付いてくる訳だ
思考の先端を追い越した記憶を たらたらと垂らしては
どうせなら
少しばかりの心地良い釣果を求めて
石造りのベンチでゆっくりと 獲物がかかるまで 横になろう
本当の風邪をひくのは ごめんだけど
時間切れで方向性を失った 平常心を落ち着かせるには丁度いい
こめかみをクランクシャフトの軸にして
生々しい蒸気機関が記憶を操る
血液の粘度を上げて 夢中で集積したメモリィは
たかだか明日の朝までに 枯渇することなど 有り得ない
痛いくらい 冷えきったベンチでも
胸の ざわめきは 冷めないまま
ぼくは また一つ 日付を跨いで
水平線から浮上する 旭を目差す
色褪せないまま 波打ってくる枕木を
ひとつひとつ 思い出して 乗り越えて
海面を行く 列車になって
戻る 編 削 Point(5)