お玉が池のひと/恋月 ぴの
 
けど
渋いお茶が欲しいとか細かい注文ないのはもっけの幸いで

たまのお使いが唯一の気分転換になっている

勤め先のある東松下町から昭和通りを渡れば岩本町
なぜか制服関係の問屋さんが散見されて
私の着てる制服もあんな問屋さん経由で仕入れたのかも

入社日当日には真新しい制服用意してあって
さっそくと袖を通せば、上司の心遣いに感激したりした

やる気って要はきっかけなんだよね

お会いしたのははじめてな取引先の事務員さん
私と同じくらいの年頃で濃い目のアイラインは却って好ましく
幼さを意識した言葉遣いは女の生きる術だったりもする

日々生きられることに感謝しないと

祠の奥には湧き水らしき猫の額ほどの静けさを湛えていて
お玉さんって美しい人だったのかな

見上げればビルの谷間から覗く青空は同様に猫の額ほどだけど
それでも初夏の兆しは眩しくて

寄り道しすぎた言い訳なんかが頭をよぎる





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