罪にもいたらず/メチターチェリ
 
ことはない
自分の発見に少し気をよくした目出度さが
倍の虚しさになって懐ろを寒くする

よごれた身体で深く 冷たい窓辺に寄り添っている
あだけた空は、彼に何を語りかけるだろう
新しくもない言葉を反芻する毎日に
清新な息吹を吹き込んでくれるだろうか

あるいは、
そんなこと 本当はぜんぜん望んでいないのかもしれない
彼はもうひと月 誰かを殺しに行く勇気も出ないまま
辞書に書き加えるべき言い訳ばかりを探している

足りないものは何なのだろうかと
中産家族 冷めた友人 顔色の優れた娼婦たちのことを思い浮かべ
誰かを殺しに行く勇気も出ないまま
嵐はうるさく通り過ぎようとしていた
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