桜/ホロウ・シカエルボク
障子越しの陽の光が、やわらかな色味に変わるころになると
あのひとは楽しそうにわたしを呼びつけては
「春を描け」とねだるのでした
わたしはあなたの枕の横に
ひとさし指でかえるやつくし
梅に桜にチューリップ
頭に浮かぶかぎりの春を
ゆっくりゆっくりなぞるのでした
あなたはそんなわたしのことを
しずかにやさしく見ておりました
わたしがなにも描けなくなって
困って首を横に振ると
薬を飲んで眠るのでした
あなたは春が好きでした
春のあいだのあなたには
なにやら不思議な空気が満ちておりました
「なあ、お
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