テーブル農園のトマトに花が咲く。それから/なき
きいちゃんに花が咲いたよ、久しぶりの電話口の良司の声は無邪気で幸せだった。よかったね、と返しながら私は良司の子供のような声に安堵のような興ざめのような脱力感を味わっている。
きいちゃんは黄色いトマトだ。まだ実はなったことがない、若い苗だ。良司はきいちゃんは絶対に女の子だと言って譲らず、毎日毎日声をかける。きいちゃんおはよう。きいちゃんお水の時間だよ。きいちゃんいい子だね。きいちゃんただいま。きいちゃん綺麗。きいちゃん土が乾いてるね。きいちゃん大好きだよ。きいちゃんおやすみ。きいちゃんきいちゃんきいちゃんきいちゃん――
私にしてみれば植物なんてまるで地球外生命体に等しく、遠く、不可思議で、
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