盧舎那仏/……とある蛙
黒光りする盧舎那仏は
大仏殿のひんやりした空気の中に
佇む自分を見下ろしている。
盧舎那仏に見られている
自分だけではなく
その場に佇むすべての者に
注がれる大仏の眼差しは
見る者からは皆一点なのだが
すべて同時に注がれる。
盧舎那仏の優しさ
大仏殿の前の喧噪
創建当時にいたのか くそ鹿
煎餅ばかりに
食いつき つっつき 上目線
扉がある訳でも無いが
中に入ると 空気が変わる
見届けるべき 盧舎那仏
喧噪は消え 汗も消え
初志は忘れ 漂い歩く
正義は異様な形をして
道はうねって多岐に分かれ
道を間違える
もう一度道を間違える
道を間違えて
仏に近づく
そんなせりふを聞きながら
仰ぎ見る 盧舎那仏
御利益などと畏れ多い
ただそこに在る
ただそこに在って
盧舎那仏の眼差しは
大仏殿のひやりとした空気の中
佇む自分を見下ろし注がれている。
盧舎那仏の優しさよ
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