幸福/吉岡ペペロ
 


そのホテルのモーニングコールはいつもリチャード・クレイダーマンでした
朝その音楽に起こされてそのまま学校にいきました
陳腐な言い方ですがそんな朝は幸福から旅立つような気持ちでした

いまも打ち合わせなどをホテルでしていたりするとリチャード・クレイダーマンがながれてくることがあります
それを耳にしてしまうと今だに、なぜこんな電車に乗っているのだろう、と考えてしまいます

三十年も前のことであるのに、もう誰も憎んでいないのに、恨んでもいないのに、許せてもいるはずなのに、そんなことを考えてしまうのです
そしてこんなことを強く思うのです

あの頃のじぶんに会うことができるならば、はやくに会って話してあげたい、もっとはやくに会ってあげたい、

そんなことをぼくは強く思うのです










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