終点/たもつ
線路を描く
薄暗がりの方から
ほのかな明かりを灯して
路面電車がやってくる
駅を描く
路面電車が停まる
後扉から乗る
チラシの安売りの服を着た女の人が
前扉から降りて行く
食べた覚えの無いコンビーフの臭いが
車中に漂っている
古い感じのシートに座り窓を振り返る
指紋と手垢がピタピタとしたガラスに
自分の顔がぼんやりうつる
あの中にも視床下部やゴルジ体などがあるのに
そんなことを意識しなくても呼吸できるので
毎日とても助かっている
もう一度降りて駅に終点、と書き足す
路面電車の灯火が消える
あたりが夜の暗さを取り戻す
明日からの長雨ですべて消えてしまうけれど
すべてを覆うように
最後にパラソルを描く
戻る 編 削 Point(6)