酩想における散文詩 / ****'01/小野 一縷
 
ない 父さんと母さんからの授かり物 大事な体
「あの重荷を引きずる宿命を 誰が蝸牛に負わせたか」 
烏貝の内臓が蛞蝓のふりをして笑っている 
刺々しい岸壁にすら居場所のない

ぼくには まともな居場所がない この足で 行き場所がない 
「誰か 誰か」


「こんなところに翡翠がいる ほら 声で分かる
 父さん 母さん すごいよ ほら 」


海を見たことのない兄さんが 
流れて遠退く ぼくの呟きを笑っている  埃のような小船の上から
夜鷹のように 甲高い 奇声で。


此処を抜けたら 其処は何処だろう
海を振り切って 空に潜り込む
私を抜けた ぼくの場所
思考すら近付けない 移動の行末
私はもう ぼくに 追い付けない
誰の航海図にもない 回航


私の後に残る波跡は ぼくを孤独に幸せにしてくれる
色彩と温度で「帰ろう」と言いながら。




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