名前を知りません(春について3)/クローバー
ライオン、それじゃ、
君は、あの紫の奴や白い奴を知っているのかい
「もちろん。」
教えておくれよ。
「花、だよ、白も紫も。
で、見たままの形をしている。以上。」
名前を知りたいんだよ。
「名前はまだ無い。」
我が輩は猫である、か。
「猫ではない、花だ。」
知っている、そんなこと。
「知っているならそれでいいじゃないか。」
そうかもしれない。
名前なんか無くても、咲いている。
僕は、呼べない
君たちは、呼ばれない
そして、僕を呼ぶ声がする。
花ではない、悲しみでもない、
名前のないものが、そこここに。
生まれているような、気配が、充満する。
名前を付けてしまえば、
一つになってしまうような
無数の気配
悲しいことがうれしくて、
たのしいことが苦しい。
愛想笑いをして
ごめんなさい、と言って
君を表せない、と言って
申し訳ないのに。
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