合唱を さらに合唱を ーバイバイ カザルスホールー/……とある蛙
バイバイ カザルスホール
最初は静々と
自信のない歌声は
旋律の迷いを消すだけの声で
他人の声は聴こえない
自分の声も聴こえない
歌に詞(ことば)はなく
声に魂はない
次に粛々と
相変わらず自信のない歌声は
他の旋律に負けじと
望まれる以上の音量で
他人の声をかき消して
漂っては消え、漂っては消え
聴き手までは届かずに
それでも僕らは唄い続け
いくぶんの自信と
いくぶんの謙虚さと
仲間に対する信頼と
ハーモニーへのあこがれをもって
唄い続け
ようやく本当の聴き手が現れ
ようやく音楽の送り手の端に連なり、
ようやく詞(ことば)がメロディーにのり
そして、自分の歌が唄える。
そして、やっと自分達の歌が唄える。
僕は忘れない
僕たちの音楽がホールに響いた時を
僕は忘れない
響いた音楽の中に
僕たちのわくわくした気持ちがあったことを
僕は忘れない
ホールの空気が
心地よく振動していたことを
たとえ、どんな日がきても
僕はきっと忘れない
あの時間をあの場所を
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