おとなのひと/たちばなまこと
 
Englishman in New York が聞こえる
懐かしい香水の匂いが通り過ぎる
地下へもぐる階段で
地下鉄の隣の席で

自分の左手を見つめる
指輪がひとつ
そのほかはヌード
針の刺し傷
赤や青のマジックの跡
しわの多い手のひら
職人の手
広げたり
握ったり
ひっくり返したり

歓談の合間にときおり
クライアントからの着信
Englishman in New York が聞こえる
ポリスの頃からのスティングを知っている
おとなのひと
いつも気の利いたお店を教えてくれる
いつも小さな女の職人色を立ててくれる
夜がふけるまでは
おとなのひと

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