大鉄道旅行時代/片野晃司
めるのもよかった
列車は風に靡く草原の暗闇へ飲み込まれていった
ひとは宇宙空間でさえ何分も死ぬことができない
そう教えてくれたのはきみだったか
線路の敷石の下で幾層もの堆積が歪み
深みへ落ち込んでいく
それが線路の立てる音でわかる
枕木の下で幾層にも死んでいった僕たちが
その重みで深みへ落ちながら溶けて
地平の先からまた昇ってくる
それが暗闇を走る列車の軋みからわかる
僕たちは手をつないだまま
暗闇を走る列車のあかりを見た
それから風に乗って
眼下を走る列車を見た
それから
大地の下に仰向けに沈んで
夜空を走る列車を見上げた
客車はどこまでも連結してどこまでも果てがないから
どこで乗ってもよかった
夜はもたれあって手をつないだまま眠り
昼は向かい合って外を眺めた
(詩誌「ガニメデ」vol.45 2009年4月)
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