並木橋のひと/恋月 ぴの
 
高架線の流れに押し戻されつつもドア際へ体を寄せれば
やがて天井桟敷の建物が左手に顕れる

夜勤明けの尻ポケットには馬券の束
そして耳に挟んだ赤鉛筆

「穴場に手を突っ込んだ勝負馬券は当然にして
神様の二重丸を外して買ったものさ」

ふらり散策した古書街で買い求めた数冊の本のなかに
いつの間にやら紛れ込んでいた一冊の本

あのひとが贔屓にしてた寺山修司の戯曲集
後期の作品ってことになるのかな
身毒丸
とか青ひげ公の城が収められている

へえ、「しんとくまる」とは心底読み難いんだけどね
ぱらぱらとページをめくれば
不器用だったあのひとの咳払いとか思い出して
思わ
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