弥生/しべ
 
ありあわせの息をつなぎ止めては
上皮になすりつける

吸気とのバランスが保てないのは
肺が弱いからだろう

草も土も穏やかで冷たい
詐欺師のようにゼンマイで動く春は
枝から頬
鼻先に戻り
また頬へ
まるで頼りない

欄干に沿って振り子遊びをする

その先で泳いでいる安物の煙
川面を覗くのは人の姿だ

3月13日

柳、木ノ下二階の右隅に
蛍光灯の郭がくっきり浮かぶ

暖簾が舞うと衣擦れの音で
身支度する暇もない

通りに面したガラス戸と軒下の切り絵
月は暫しゆらゆらと笑っていた

あれは涙ではないと
ひとは言うけれど

戻る   Point(1)