遭難/古月
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僕はなにかを言おうとするけど
言葉はするりと逃げてしまった
お父さんの凍りついた両手がぼろぼろと溶けだして
部屋はたちまち水浸しになる
インターホンから聞えてくる泡のような唄
いまにも玄関を突き破りながら
なだれこんでくる巨大な氷山
舵を取るひまもなくあっという間に
僕らのうちはこなごなになった
お母さん
僕きょうね
学校の帰りにお父さんを見たよ
お父さんの後ろ姿はこんなに
こんなにでっかかったんだ
港のほうではたくさんの汽笛が
いつまでもいつまでも鳴り止まない
ありがとう
お父さん
お母さん
ハッピーバースデートゥーユー
ハッピーバースデートゥーユー
最後の通信を
これで終わります
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