こいびと/はるな
 
 覚えている。
 まつげ。くちびる。あごひげの、長いところ、みじかいところ。つむじ、寝ぐせ、大陸みたいな背中。せまいキッチンの、ほこりをかぶったトースター、使われたことが一度もないみたいな炊飯器。ひとつだけのガス台を磨いて、スープをつくった。たまねぎを器用によけて食べる手元。完璧なお箸の持ち方をすること。何度も何度も一緒に食べたね。わたしたちを。食事みたいに、お互いのからだを食べて、飽きれば眠って。寝顔は穏やかで、大晦日に行った由比ヶ浜の海みたい。人ごみのなかでしっかり手をつないで、甘酒が苦手なわたしにココアを買ってくれる。あなたの背がたかいから、いつも見上げていたよ。顎のラインを、いちばんくっ
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