もいっこ群像/生田
青年と自転車が走る夏の残り。夜の田んぼからの風が運ぶ匂いに目眩を覚える。機嫌の良くない彼女に会いにいくために走る青年は、キスすれば機嫌の良くなる大切な人のことを考え、そのあと家にどんな顔して帰ろうか、なんて考える。色んな大切な人とうまく付き合っていけるような気がしていた。
酔っ払って帰って、引きこもった息子を連れ出して、ラーメンを食べに行く親父さんは、たぶん息子と父親でなかったらうまくやれたような気がするんだ、と呟いて、息子が素直に頷いたのに、なんか納得した気持ちで、噛み合わない歯車でも、良かったのだな、とか。仕方ない人だ、と誰かに呟いた息子は、この夜、確かに息づいていた。
仕事から帰って、飯、風呂、で倒れこんだ。テレビをつける気力もないのに久しぶりの煙草を吸いたくて旅に出る。それくらいは許されたい社会人の夜。探さないでください、と書置きをして、部屋の鍵は閉めないで、明日はゴミの日だからゴミ袋ももって。
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