聖橋のひと/恋月 ぴの
私って口下手過ぎるよね
神田東松下町にある小さな問屋さんで面接受けたあと
どこをどう歩いてきたのか
気がつけば聖橋の上から鈍く光る中央線の鉄路を眺めていた
ここから飛び降りたとしてもねえ
ゆったりとした神田川の流れは宴の気配に満ちて
清清しくも春の風は岸辺にそよぐ
面接官のおじさんは優しくて
いろいろ気遣ってくれたのだけど
それだけに自身の至らなさがあまりにも情けなかった
「こんなに応募あるとは思わなかったので
申し訳ないけど二次面接行わせてもらうから」
おじさんは机上の書類片付けながら
体のよい断り口上なのかそんな言葉をかけてくれた
諦めず
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