「春想海」/月乃助
 
されるのです )

対岸の山脈は、雲をかぶったおぼろの
稜線をかくしたりするのに、今日は
天蓋のそこだけ 中天はいっそう青く 光りの中に輝きながら
灰青色の足元のひろがりと一緒に
海峡との境を不確かにして、遊ぶように見つめています

白い飛沫に、
少しばかりの冬の寒さがあるのに、
それさえも、春の海は楽しんでいるような
今日は、余裕があるのです

空を支える海のひろがりに
海鳥達も羽を休めては、波に身をまかせて
生き物であることを やめた
白い小さな定点になって、景色に一つになるように、ただ、
声だけで、その存在を
あきれるほど、いやというほど 示している
( 海鳥達の鳴き声を、今日はどうしてか
 解することができる気がします なげきばかり… )

季節など いにかえさない 海峡の
いにしえからの水の冷たさが
ほんの少しばかり
春を待ちわびた
心に入り込んでは 
子どもをあやすように
私をもてあそんだりするのです




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