「春想海」/月乃助
光りがこぼれ
海鳴りが、さわがしい
海峡は、もう春の白波をたたえていました
モザイクのような潮の流れに
遠く、
アシカたちの群れる灯台の島は、にぎやかさを増して、
その鳴き声を潮風にのせてきます
群青色の水に休む貨物船のまどろみを
海鳥達がからかったりして、
風を泳ぐように飛び去り、
この海にたくさんのものを捨て去りました
人の知らぬ間に
傷んだ林檎を投げ捨てるように
嗚咽の涙を、諦めの吐息を、憤りの眼差しを
海峡は、少しも気にせず
荘厳なほどの水をたたえたまま
すべてを飲み込んでは、なお平然として
季節に身をまかす
( 悠然と、それがここでは許され
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