声の事/プル式
 
誰にも聞こえない小さな声がする
誰にも見えない僕の隣にいるはずの声
どんなに騒がしい場所でも僕にだけ聞こえる声
どんなに静かな場所でも僕にだけ見える声

声は僕の中の小さな不安に話し掛ける
小さな不実に、小さな希望に
小さな色々な事に話し掛ける
僕は泣き、笑い、話し、それからおびえる

声は薄らと姿を現す
窓や携帯や時には目の前に薄らと姿を現す
そんな時声はただ黙っている
ただ黙って能面の様に何かを問いかける

時には僕から話し掛けるけれど声は応えない
姿を現す事も無ければ声を出す事さえしない
それでもそこに居るのだと僅かながらに分かる
それだけで安心だった

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