『入水』/東雲 李葉
「風が少し冷たいね」と笑いかけると
まだ早かったんだとふてくされた声
まあまあ、って君のポケットに忍び込む
合わせなくても同じ歩調と
規則正しい腕時計
まだ寝なくても良いの?と、
いたずらに笑う
寄せては返すとまどいもときめきも
浄化されゆく水のなか
細いきずなで繋がっていた
あの頃に還るみたいに
裸足になって子どもみたいに
「こっちへおいで」と呼んでみる
形の無い子猫が素足をくすぐり
今度は君から指を絡めて
捲った裾が濡れる深さで僕らは何度もキスをした
果てなく暗い海だけが
二人のゆくえを知っている
波は静かにささやいて
足跡をひそかに持ち去った
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