同心円状のバルコニー/中原 那由多
止まない雨だった
優しいままでいられるほど嘘つきではないから
まだあまり汚れていない窓ガラスに向かって
冷たい視線を送り込む
反射した感情の行方を知っているくせに
しばらくそこに立ち止まったまま
耳障りの良い雑音を聞いている
『三月はライオンのようにやって来て、子羊のように去ってゆく』
そんな例文が英和辞典に載っていて
むしろ逆かもしれないと感じていた
もう、シャーペンを握らなくていいと知って
眠りこけている今この一時は
以前と大して変わらないが
少しだけ、すっきりしている気がする
回る回る水溜まりの上
靴に入るのは泥水だけでよかったのに、と
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