船/鈴木陽
 
航海が始まったときからつけられている日誌は、船の最も深い部分にある巨大な書庫の奥に置かれ、背表紙は日付の古いものから順番に棚に並んでいるが、本棚に収まりきらず木の床に投げ捨てられているものもあった。床に置かれているものは新しいものと見られ、棚に収まっている日誌はどれも少し痛んでいて、油紙の表紙はところどころ破けて穴が開いていた。表紙には四角の細い線が描かれている。そして透明な茶色に染まった染みがあった。開くと繊維がこすれあう音がした。紙が疲れているため、たやすく開きっぱなしにすることが出来る。のどまでよく開く。書きやすいだろう、しかし、しなやかな紙らしい弾力は失われている。背表紙などは裂けてしまい
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